Lost Knight
〜迷子の騎士〜

また、同じ夢を見た。
何度も何度も、繰り返し繰り返し名前を呼ばれた。
助けて、と悲痛な声で繰り返し叫ぶ女の人がいる。
助けてあげたいと心から思う。
けれど、見えない膜のようなものがあって女の人に近づけない。
あたしに何は何をしたらいい?どうやったらそこへ行ける?
『・・・ヤ・・・会っ・・・』
何?聞こえないよ?



 
桜と喧嘩して3週間たつ。
それまで謝りに謝って、ついには公衆の面前で土下座までしてみたが、見事にスルーされた。
話しかければ普通に返ってはくるが、何かがよそよそしい。
試合の日にほぼ普段通りになったと思ったのはただの錯覚だったみたいだ。
ちなみに南の引退試合はみごと準優勝し、後輩たちと共に大泣きをし、無事終了している。
それから3週間。そんなにたつというのに、いまだに桜はよそよそしい。
まぁ、気長にいこうと決めたのだから許されるまで謝ればいい。
マイペースにそう考え、土下座や登下校の待ち伏せをし、日々頑張っている。
そのせいで南はすっかり学校の名物となり、下級生から先生にまで指さされる存在となった。
けれども、そんなのはおかまいなしに、南は桜につきまとった。
桜には見事にスルーされつつも、許してもらえるまで、と頑張った。
でも、平和だった。当たり前のような毎日だった。
ずっとずっと、途切れることのない日々だと思っていた。
 
桜と喧嘩して、そろそろ1ヶ月が経とうという頃。
奇妙な時期に転校生がやってくる噂を耳にした。
南たち3年は部活を引退し、高校受験に向けて必死に勉強し始めようという時期にだ。
クラスの情報屋、結城有里菜が言うには南たちのクラスにやってくるそうなのだ。
「結構な美男子ですぜぇ。背が高くて、顔もなんてゆーの?神秘的ぃ?」
どこかの酔っぱらいみたいな彼女の話し方は素である。
実は南、この娘に以前助けられたことがあるのだ。
それから、有里菜に借りをどうやって返せばいいか、と申し出たところ、
『鈴木南サンよねぇ?あたしゃ、貸し借りにはうるさいほうなんスけど、君ならいいよぉ。その代わ
りあたしとお友達になってくれたら借りはチャラでどぉっすかぁ?』
それならお安いご用、と南も快く引き受けた。それで有里菜と親しくなったのだ。
有里菜は一部の教師に非常に受けがよく、それでその教師からよく情報を横流ししてもらってい
るそうなのだ。教師がそんなんでいいのか、とため息が出る。
「南サンはそぉゆーのって興味ないんスかぁ?」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら有里菜が問うてくる。
「そういうの?」
「美男子系はお好きじゃないぃ?ちなみにあたしゃ大好きでさぁ」
「そうか。お前の好みはころころ変わるんだな。前まで渋いのが大好きって言ってなかったか?」
指摘すると有里菜はそっぽを向いた。子供っぽくて思わず吹き出しそうになる。
それをこらえて、話題を元に戻すことにした。
「で、その美男子はいつ来るんだよ?」
「今日でさぁ、旦那」
こっちを向いて、またニヤニヤ笑いを浮かべる。まるぶちのメガネが光ってなんとも怪しい。
「今日?早いな」
多少疑問を感じて眉をひそめる。
「まぁ、南サン。とにもかくにも美男子なわけだよ。ワンダフルなスクールライフだねぃ」
「一人でワンダフっとけ」
有里菜に突っ込んだところでチャイムが鳴った。
皆がきちんと席に着き、転校生が教室の戸を開けて入ってくるのを待っている。
有里菜の情報は回るのが早いのだ。
まず、最初に教師が入ってきた。
その後ろに例の転校生。少しうつむき気味に入ってきた。クラス全員が顔を見ようと首を伸ばす。
転校生が教師の横に立つ。そして、パッと顔を上げた。
女子からは、歓声。男子からは、沈黙。南からは、悲鳴が出た。
転校生の名は、赤月ユウヤ。公園で会った、あのユウヤだったのだ。
 
南は保健室にいた。
気分が悪いのだ。本当だ。決してたまたま席のあいていた南の隣にユウヤが来てしまったのが
嫌だったとか、そういう子供じみた理由ではない。断じて違う。
保健室のベッドで横たわりながら、悶々と一人考えていた。
なんだ、あいつは?前にうちの制服着てたからいるかどうか調べてみたのにいなかったし。
ユウヤっていうキーワードしかなかったから下級生のユウヤってのに会いにいったらごついの出て
きたぞ?いや、そんなのは関係ないけど・・・。それにしてもごつかった・・・。あのユウヤ・・・。
布団を頭からかぶってほぼカメ状態になって一人でウーウー唸っていると、保健の先生が胃薬を
持ってきてくれた。なにか違ったけど、とりあえずお礼を言ってもらっておいた。
しばらくそんな状態でいると、だんだんと眠気が襲ってきた。
教室に戻るのも嫌だったので、このまま寝てしまおうと思い、目を閉じた。
瞼の裏にフッと夢の中の女の人が浮かんだ。
今度の夢は、あの女の人を助けられる夢がいい、と思い南は眠りに落ちた。
 
『ミナミ・・・。ミナミ姫っ』
・・・え?
『起きてくださいっ。あ、いえ、起きちゃ駄目です!』
どっちだよ、と思いつつ目を開けた。周りは真っ暗でなにもわからない。
けれど、前方に女の人がいるのがわかった。まるでその人を守っているかのように、その人の周
りだけ薄緑の光に包まれていたからだ。
ふと、自分の周りにも光があることに気がついた。
女の人のような薄緑ではなく、燃えるような赤だった。
『ミナミ姫っ。時間がないんです。聞いてください』
女の人がこっちに向かって必死に語りかけてくる。あの、夢の女の人だ。
あぁ、これは夢なのか。あの膜を破って、女の人に近づけたのだろうか?
『姫、ユウヤに接触しましたね?』
瞬間、びくりと身体がふるえた。この女の人はなぜこんなことを問うのだろう。
『ミナミ、よく聞いて。ユウヤに話を聞くのです!目が覚めたらすぐに!』
女の人がこちらに向かって手を伸ばしてくる。
南も自然と女の人に向かって手を伸ばす。
しかし、見えない膜がやはりあって、女の人の手を取ることができない。
『お願い。早く帰ってきて・・・。私たちを助けてください・・・』
声が遠くなる。薄緑の光も女の人と共に消えていった。
真紅の光と南だけがそこに残った。やがて、それも薄れ、遠のいていく。
あたしはまた、あの人を助けられなかったのかな・・・?
 
「ん、起きた?」
目が覚めるとそこは保健室。真っ暗でなければ、女の人もいないし薄緑の光もない。
しかし、今南の中で話したくない奴bPを獲得した赤月ユウヤがいる。
しかも、南の横たわっているベッドの上に座っていて、南の足の上に何の遠慮も配慮もなく座って
いる。急激に殺意が芽生えたが、ここで怒ったら駄目だ。
自分のほうが、こいつより大人なのだ、と必死に言い聞かせなんとか殺意を押し込める。
「それよりさ、君大丈夫?珍獣のように唸って寝てたけど。気味悪かったー」
自制心が崩壊した。
「・・・フッ。よぉくわかった。お前はあたしとそんなに喧嘩したいんだなっ!」
上等だぁ!とそれこそ珍獣のように吠えると、ユウヤがキョトンとした表情を浮かべ、
「野蛮だよね。すぐにそうやって暴力で片づけようとする。俺は平和主義だから君を言葉でなんと
か説得してみようと努力はするけど、きっと君はわかってはくれないだろうね。だから、仕方なく俺
は君にボコボコにされるんだ。でも、大丈夫。俺ほど寛大な人間はきっといないだろうから、どん
なことをされても、俺はきっと君を恨むことなんてない。ただ、君にわかってもらえるまで何度だっ
て平和を説いて聞かせるよ。そのうち、君も俺の素晴らしさと寛大さと優しさをわかってくれて俺に
謝ってくるようになる。『ごめん、ユウヤ君。あたしが悪かったわ、がおー』」
と長々と語った。最後のほうはちんぷんかんぷんになってはいたが口達者な奴だ。
「がおーって何だ」
「珍獣の君にふさわしい鳴き声だよ。嬉しい?」
「嬉しくねぇ」
喧嘩する気も失せてハァーっと長いため息をつく。
あれだけ長いせりふを息継ぎもせずに吐いたのに、ユウヤに疲れた様子は微塵もない。
「あ、そうそう。君、最近夢見るだろ?」
南がひゅっと息をのんだ。女の人が言っていたのは現実と繋がっているのか。
「・・・見るけど、それが何?」
わざと試すように聞いた。ユウヤはそれを察したのか薄く笑みを浮かべた。
「女の人の夢。俺に何か聞けって言ってなかった?」
冷笑がいつもに比べ楽しそうなものになっていた。
玩具を与えられた子供のような笑み。冷笑の中に混じっている奇妙な喜び。
「言われた」
素直にそう答えた。ユウヤが満足そうにほほえみ、うなずく。
「話を聞きたい?」
さっきの南のように試すような聞き方をした。挑発的な瞳。
少しの間、その目を直視せず、ぼんやりと自分の手を見つめていた。
しかし、すぐにユウヤの瞳を真正面から睨みつけ、冷笑してやった。
「聞きいてやるよ。その話とやらを」
ユウヤの顔がまた満足そうに微笑んだ。
聞きたい。ユウヤの話を。
知りたい。あの女の人のことを。
たとえ、自分の運命がなにもかもかわってしまうことになっても。
 
 
 
 
 
 
 
 
イッエーイ・・・。(何)書いてる途中に変な風にテンションが上がってしまいました・・・。
めっちゃすらすら書けた第3弾。それでも駄文なことに一切変わりはなし。
本当にごめんなさい・・・。しかもなんか話の進行おそっ!
こんなんで最後まで書ききることができるのか謎なのですけれど・・・。
頑張ります・・・。押忍・・・。